研究概要 |
本年度は、18世紀のイギリス大西洋経済の中核をなしていた大西洋奴隷貿易に関わる商業ネットワークを分析した。具体的には、まず、イギリスの貿易統計史料(具体的には、Customs 3およびCustoms 17)をもとにして、イギリスからアフリカに輸出(再輸出)されていた商品のなかで、黒人奴隷の対価として最も重要な位置をしめていたインド産綿織物に分析の焦点を定めた。そして、その流通に携わった商人の活動を明らかにするために、イギリスの国立公文書館に所蔵されているトマス・ラムリー商会の史料を用いて研究した。こうした実証研究を通じて、18世紀後半のイギリス大西洋経済の成長の要因についてアジア貿易を含めたグローバルな視点から考察する可能性を開くことができた。2010年4月と6月には、その中間報告として、大阪とピッツバーグで開催されたワークショップで研究発表をして、その成果の一部は、ワーキング・ペーパー"British Atlantic Slave Trade and East Indian Textiles,1650s-1808"Global nistory and Maritime Asia Working and Discussion Paper Series,Working Paper,vol.19,2010としてまとめた。また、2010年9月末以降は、ロンドンで在外研究を行っている。ロンドンでは、国立公文書館での調査に加え、リチャード・ドレイトン教授(ロンドン大学キングス・カレッジ歴史学科)をはじめとする多くの研究者との意見交換に努めてきた。それに加えて、2011年3月には、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院主催のアフリカ史セミナーで報告する機会を得た。来年度の課題は、日本語の学術論文としての成果報告と、貿易の金融制度に関する研究になるだろう。
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