研究概要 |
脂質二分子膜上での高選択的な分子操作は、生体分子を対象とした微小場・微少量試料分析システム構築に重要である。これまで私は非バイアス下での分子輸送を可能とする脂質二分子膜の自発的展開挙動と、分子拡散性に基づいた分別が達成可能なブラウニアン・ラチェット機構を組み合わせることで、タンパク質Cholera Toxin B (CTB)とこの膜内レセプターganglioside GM1 (GM1)により形成される会合数の異なる複数の分子会合体を分別可能であることを示してきた。しかし、これらの会合体は経時的に複数の拡散状態間を遷移するため拡散係数を一義的に決定することが困難であった。そこで本年度は分子拡散性の揺らぎが小さい蛍光修飾脂質Texas Red【○!R】DHPEを用い、より定量的な分別効率評価を試みた。実験手順として、まずSiO2基板上に構造体短辺長aが250nmのCr/Au非対称金属構造を構築し、本基板上を自発的に展開するegg-PC脂質二分子膜内Texas Red【○!R】DHPEに対し、全反射顕微鏡を用いた単一分子追跡を行い、その軌跡解析から分子運動性を評価した。自発展開膜の展開方位に対して平行方位における平均変位量から各追跡分子輸送速度vを算出し、垂直方位の平均変位量解析と併せて展開方位に対する輸送角度を算出した。個々の分子に対する輸送角度をa,および個々の分子におけるD、vにより決定されるラチェット分別効率決定パラメータD/vaに対してプロットしたところ、TR-DHPE系ではCTB-GM1系よりも高い分別効率が発現した。これは構造体間隙部における分子と構造体壁面との摩擦抵抗、または脂質膜の構造変化に起因するvの特異的減少などにより生じた差異であると考えられる。従って本分子分別機構ではD/vaには含まれない、分別対象分子の分子サイズや脂質膜との相互作用特性が強く分子分別効率に関与していると考えられる。以上、非対称構造障壁と脂質二分子膜自発展開挙動を組み合わせにより新規な分子分別機構を提案した。
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