研究課題/領域番号 |
10J02240
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
茂木 俊憲 北海道大学, 大学院・理学院, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 脂質二分子膜 / ブラウニアン・ラチェット / 全反射顕微鏡 / 単一分子蛍光 / 金属ナノ粒子 / 単一分子配向 |
研究概要 |
脂質二分子膜上での高選択的な分子操作は、生体分子を対象とした微小場・微少量試料分析システム構築に重要である。これまで私は非バイアス下での分子輸送を可能とする脂質二分子膜の自発的展開挙動と、分子拡散性に基づいた分別が達成可能なブラウニアン・ラチェット機構を組み合わせることで、タンパク質とこの膜内レセプタからなる複数の分子会合体を分別可能であることを示してきた。また本分別機構においては分子拡散性のみだけではなく、その分子配向についても議論する必要があることがわかってきた。従って、本年度は単一分子蛍光を観察することにより、単一分子の3次元配向情報を取得可能な手法の開発を行った。観察対象分子としてはガラス基板上に分散した長軸長さ200nm程度の金属ナノロッドを用いた。これを532nm励起光を用い、全反射条件にて散乱光を検出した。このとき、通常焦点面にあわせると輝点として単一蛍光は観察されるが、焦点面を数umで制御し光路に収差を導入することで分子発光ダイポールの電磁場分布に従った、つまり分子3次元配向が反映された蛍光強度の分布がイメージング可能である。本年度はこれらのイメージから分子配向を近似解析する手法を確立し、観察したAu粒子が単純な一次元的な散乱ダイポールで近似できるものと、それよりも高次の散乱ダイポールで近似できる2種類が存在することを明らかとした。特に高次の散乱ダイポールの由来はAu粒子の長軸、これに垂直な断面内での直交する2軸の短軸に由来するものであると考えられた。現在、本手法を脂質二分子膜内の蛍光分子観察に応用することで、微小領域での膜構造情報を取得可能であることを示している。今後、金属構造と脂質二分子膜を組み合わせた、分子分別系へと応用することで、極微小領域での分子運動の抑制度合いをより定量的に求めることができ、新たな分別パラメータとして考慮可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単一分子の高精度な脂質二分子膜内分子分別システムの確立を目指している。これまで異種分子を用いることでの膜親和性の違い、構造障壁の密度などによりその分別効率が変化、制御可能であることが判った。当該年度においては上記の分別パラメータに加え、3次元分子配向性が大きく分別効率を変化させることがわかった。更には、この3次元分子配向を脂質二分子膜内にて単一分子観察する手法を世界で初めて成功させた。既に、本手法を用いた結果に基づき複数の論文作成を行っている。従って、当該年度の成果は当初の、膜内分子配向を観察する手法の確立という目標を十分達成し、さらに周辺領域の金属ナノ粒子やその他蛍光発光半導体ナノ粒子などへの応用も検討し論文化しているという点から本評価をするに至った。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の成果から、脂質二分子膜内での分子分別系においては、3次元分子配向性が大きく分別効率を変化させることがわかった。また膜微小領域における単一分子の蛍光発光分布観察から、その分子配向性を直接的に評価可能な手法を確立した。今後はこの配向を積極的に制御し、分別効率を向上させるために新規に提案する形状の金属構造障壁を用いた実験を遂行する。現在この構造障壁を用いた場合の分別効率は数値予測できており、実験値と計算値の違いを求めることで、配向制御による分子分別効率の定量評価を目指す。分別対象分子としてはその膜内分子拡散性が一意に定義可能である、蛍光修飾脂質分子を用いる。用いる金属構造の設計においては、数nmオーダーで構造障壁間の幅を制御することで、分子配向を制御可能な閾値を系統的に件とする。上記最終年度の目標を達成することで、1つの分子特性を精妙に認識可能な新規分別デバイスの開発が可能である。
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