アルツハイマー病(AD)は認知障害を主な症状とする進行性の神経変性疾患である。急速な高齢化が進む日本において、ADの予防および治療法の開発が社会的な要請となっており、発症機構の解明が望まれている。AD発症の分子機構として、アミロイド前駆体タンパク質(APP)が切断酵素による二段階の切断を受けて産生されるβアミロイド(Aβ)がオリゴマーを形成し神経毒性を示す仮説が広く支持されている。AD患者の90%以上を占める孤発性AD(原因遺伝子に変異を持たない)において、神経毒性を示すAβが量的・質的変化を現す仕組みは明らかになっていないが、膜タンパク質であるAPPの細胞内輸送過程でAβが生成することが明らかになりつつある。近年、AD初期には軸索輸送の低下が起こっていることや、APPの軸索輸送が滞るとAβが増加することが報告されている。 そこで私はAPP小胞の軸索輸送を観察するため、野生型およびJIP1遺伝子破壊マウス胎児脳から初代培養神経細胞を調製し、蛍光タンパク質EGFPを融合させたAPP-EGFPを遺伝子導入・発現させ、全反射顕微鏡を用いたライブイメージングを行った。その結果、野生型と比較してJIP1遺伝子破壊神経細胞においてAPP小胞輸送速度の低下が見られた。次に、JIP1遺伝子破壊神経細胞にAPP-EGFPとJIP1bを共導入するとその速度低下が解消されることも確認した。また、JIP1bのキネシン-1結合領域欠失変異体を作製し、APP-EGFPと共導入しても輸送速度の低下は解消されなかった。これらの結果はJIP1bとキネシン-1の結合がAPP小胞の高速輸送に必要であるということを示す重要な知見になると考えられる。
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