アルツハイマー病(AD)原因因子のひとつであるAPPは、細胞内輸送過程でAD発症につながるアミロイド産生的代謝を受けている可能性が示唆され、APP輸送機構を理解することはAD発症メカニズムを解明する上で重要な手掛かりとなると考えられている。私はAPP小胞の軸索輸送を観察するため、野生型およびJIP1遺伝子破壊マウス胎児脳から初代培養神経細胞を調製し、蛍光タンパク質EGFPを融合させたAPP-EGFPを遺伝子導入・発現させ、全反射顕微鏡を用いたライブイメージングを行った。その結果、野生型と比較してJIP1遺伝子破壊神経細胞においてAPP小胞輸送速度の低下が見られた。次に、JIP1遺伝子破壊神経細胞にAPP-EGFPとJIP1bを共導入するとその速度低下が解消されたことからJIP1がAPP小胞の高速輸送を制御する因子であることが明らかになった。また、JIP1は細胞内のリン酸化シグナルカスケードを担うタンパク質でもあるためリン酸化がAPP小胞の高速輸送に与える影響を非リン酸化型APPノックインマウスから調製した初代培養神経細胞で検証したところAPP小胞は高速で運ばれていたためAPPのリン酸化は高速化に関与しないことを示した。最後に神経細胞内APP輸送複合体を生化学的に明らかにするため、野生型マウス脳抽出液からAPP輸送モーターであるキネシン-1に対する特異抗体で共役免疫沈降を行ったところ、JIP1とAPPの結合が確認された。さらに2か月齢マウスと14か月齢マウスで同様に実験したところ14か月齢マウスのほうがJIP1とAPPの結合量が減少していたことから加齢とAPP輸送複合体量減少の関連性を示唆する結果を示した。
|