本年度は第一に、カリフォルニア大学Elliot Brownlee教授との共同研究を進め、6月のPolicy History Conference、11月のSocial Science History AssociationのAnnual Meetingと海外における学会報告を重ねる中で論文をとりまとめた。そこでは、1950年に実施されたシャウプ税制が、様々な主体の利害関係の中で如何にして換骨奪胎されていったか、ということを明らかにした。その論文はシャウプ勧告に関係する研究を集めた書籍へ掲載する方向であり、現在Cambridge University Pressにおいて審査中である。第二は、占領期の所得税減税が如何にして行われたかを明らかにする研究を新たに行った。そこでは1947年の申告所得税導入により生じた税務行政上の問題が大きな要因となり、所得税減税の方針がとられるに至り、シャウプ勧告を経て実現されたことが明らかになった。これは、数年で換骨奪胎されたシャウプ税制が、勧告が出された当時はなぜ日本政府が受容したのか、という点も明らかにするものである。この内容は10月の日本財政学会において報告を行い、修正を加えた上で3月に三田学会雑誌へ投稿した。第三に、6月に学会のために渡米した際、デトロイト公立図書館を訪れ「ドッジ・ペーパー」の収集を行った。ドッジは占領期日本におけるインフレ停止および米国の対日援助削減等の目的のために総司令部に招集された人物(デトロイト銀行頭取)であるが、ドッジ・ペーパーは彼が所有していた文書群である。当時のドッジは予算等の財政問題に対しても絶大な権限を持っていたのであり、ドッジ・ペーパーは占領期の財政・税制問題を研究する上で極めて重要な資料である。同資料は今後の研究において本格的に利用する予定である。
|