生体外で人工的に作製した筋組織は、再生医療をはじめ、薬剤スクリーニングやバイオアクチュエータへの応用が期待される。これまでに、磁性ナノ粒子であるマグネタイトを正電荷脂質で包埋したマグネタイトカチオニックリポソーム(MCL)を用いて、筋芽細胞を磁気標識し、磁石で細胞を集積させて三次元組織の構築を行い、筋分化誘導培地で培養することで、高密度の筋管細胞が特定方向に配向した人工筋組織の作製に成功した。作製した人工筋組織において、電気刺激に応答した収縮運動がみられたが、その収縮力は生体内の筋肉組織と比較すると弱く、より収縮力の強い筋組織の構築が必要である。生体内で筋組織は、神経系を介した電気刺激によって、収縮運動することで機能と構造を維持している。一方で、試験管内での人工筋組織の培養において、培養筋組織は「脱神経状態」であるため、筋管の発達が限定されると考えられる。そこで本年度は、MCLを用いて作製した人工筋組織に、持続的な電気刺激を与えて培養を行うことによって、収縮力の高い人工筋組織の誘導を行うことができるかについて調べた。まず、電気刺激培養条件について印加電圧、パルス幅、周波数をパラメータとして検討を行った結果、分化誘導4日目から0.3V/mm、4ms、1Hzの電気刺激培養条件で電気刺激培養を行うことで、より収縮力の高い人工筋組織を誘導することができた。電気刺激培養後の人工筋組織を免疫染色した結果、顕著なサルコメア構造を確認することができた。さらに、ウエスタンブロットによる筋特異的タンパク質の発現解析を行った結果、電気刺激培養を行うことでMyosin heavy chainやTropomyosinといった筋形成・筋収縮に関与するタンパク質の発現上昇を確認した。これらの結果から、電気刺激培養が高機能な人工筋組織を誘導する方法として有用であることを明らかにした。
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