本研究では、輝度が空間的に変動する領域(分節領域)内での明るさ知覚に関して検討している。分節領域内での明るさ処理は、空間的に一様な領域内でのものと異なることが知られている。このため、分節領域内における明るさ処理メカニズムを解明することは、口常場面(複数の物体が存在し、そのそれぞれが異なる輝度をもつ状況下)での明るさ知覚を理解する上で重要となる。本研究の目的は、分節領域内での明るさ知覚に影響を及ぼす空間要因を明らかにし、その処理メカニズムに関する理解を深めることにある。具体的に、分節領域内での明るさ知覚が空間的な近接性によってのみ規定されているのか、空間的体制化の影響も受けるのかを明らかにすることを検討課題とした。分節領域内では、ある領域の近傍には複数の領域が存在するため、それらの網膜上での近接性が明るさ知覚に影響を及ぼすと考えられる。しかし、複数の領域が存在することによって、それらの領域がどのようにまとまり、他と切り分けられるかという空間的体制化の影響も受ける可能性がある。本年度の研究では、空間的な近接性の影響をできるだけ一定に保ったまま、運動する検査刺激がその周辺刺激と連動するかどうかを操作することによって空間的体制化を操作し、それに対応して分節領域内での明るさ知覚が変化するかを検討した。実験では、検査刺激が周辺刺激とまとまって知覚される条件と切り分けられる条件を設けた、実験の結果、分節領域内での明るさ知覚に空間的体制化が影響を及ぼすことが示された。特に、検査刺激が周辺刺激とまとまりを持つ場合には周辺刺激の輝度から検査刺激の明るさへ及ぼす影響が強く、切り分けられる場合にはその影響が弱まった。以上の結果は、分節領域内における明るさは、網膜像上の空間的な輝度分布だけでなく、運動の同期によって網膜像上の要素が体制化された後の空間表象に基づいても処理されていることを示唆している。
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