造礁性サンゴ骨格に含まれる有機物の窒素同位体比は、周囲の栄養塩濃度および栄養塩の供給源の変化と共に変動し、貧栄養海域における栄養塩循環の解明及びその歴史的変化の復元の有用なツールとなりうる。本研究ではサンゴ骨格の窒素同位体比を新たな古環境復元指標として確立し、これまで復元できなかった過去の栄養塩情報(濃度、起源、供給過程)を復元することを目的としている。平成22年度は1.サンゴ飼育実験の開始、2.有機分子の抽出・窒素同位体比測定の準備実験、3.環境水の窒素同位体比モニタリングを実施計画に記載した。 1.サンゴ飼育実験の目的はサンゴ骨格に含まれる窒素の起源と骨格に至るまでの経路を特定することである。15Nトレーサーを水槽に添加し、サンゴ骨格中に保存されるまで飼育を続ける。2010年9月に沖縄県石垣島でハマサンゴの生体を採取し、飼育を開始した。持ち帰ったサンゴは水槽で5ヶ月間飼育し、石灰化速度を測定した結果、今後、半年間の飼育をつづけることにより、分析必要量の骨格を成長させることが分かった。 2.有機物の抽出と窒素同位体比測定手法の検討を行い、造礁性サンゴ骨格の窒素同位体比指標としての可能性を検証した。石垣島白保サンゴ礁に生息する造礁性サンゴの窒素同位体比分布と海水中の硝酸の窒素同位体比分布を比較し、ほぼ同じ分布になることを発見した。本研究の成果は造礁性サンゴ骨格の窒素同位体比が、海水の窒素同位体比組成をそのまま反映することを示し、古環境復元に有用なツールであることを示唆した。 3.環境水の窒素同位体比とサンゴ骨格の窒素同位体比の季節変動を比較することにより、指標としての有用性を検証する。環境水のモニタリングサイトには高知県竜串湾と石垣島白保サンゴ礁を選んだ。環境水の採取は竜串ダイビングセンター、WWFサンゴ礁保護研究センターの協力の下、3ヶ月に一度、海水および河川水の分析を行っている。
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