研究課題/領域番号 |
10J02321
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研究機関 | 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター) |
研究代表者 |
宋 剛秀 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター), 新領域融合研究センター, 融合プロジェクト特任研究員
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キーワード | 人工知能 / SAT技術 / インクリメンタルSAT解法 / システム生物学 |
研究概要 |
最終年度の報告として、これまでの研究成果について以下にまとめる。 本研究では化学反応法則を満たしつつ入力代謝物集合から出力代謝物集合を生成可能なパスウェイを活性パスウェイ呼び、特にその包含関係において極小なものを極小活性パスウェイと呼ぶ。研究ではまず極小活性パスウェイを列挙する問題を極小活性パスウェイ同定問題として定義を行った。代謝パスウェイの解析を行う際には既存のデータから問題を構築する必要がある。そこで更新頻度において優れていることから、生物学的知識のデータベースEcoCyc(http://ecocyc.org/)から問題を構成して評価を行った。このデータから構成した問題をSAT技術によって解くために本研究では次の枠組みを用いた:(1)まず問題を命題論理式に符号化する、(2)SATソルバを漸増的に適用するインクリメンタルSAT解法を用いて符号化された命題論理式から極小モデルを計算する、(3)得られた極小モデルを逆符号化することで問題の解である極小活性パスウェイを得る。 提案した問題および解法の評価のためにEcoCycのデータから極小活性パスウェイ同定問題を構成し、SAT技術を用いて解を求めた。結果として9個の極小活性パスウェイを同定し、その中の2個が生物学における既存の知識と一致したパスウェイ(参照パスウェイ)であることを確認している。また専門家との議論で提案された制約を命題論理式に追加することでより精緻なパスウェイを計算することに成功した。この成果は国内雑誌論文として発表を行った。また代謝パスウェイに対する解集合プログラミングを用いた解析研究についても国際会議の会議録で発表を行った。 さらにより具体的な生物学の問題に適用するために、大腸菌における単一遺伝子ノックアウトの影響予測を極小活性パスウェイの同定によって行う手法の研究を国立遺伝学研究所の研究チームと共同して進めた。大腸菌の解糖系に対して計算機実験を行った結果,提案手法の予測が生物実験の結果とよく一致することを確認した。この成果は国際会議において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は生物学分野における代謝パスウェイの解析に対してSAT技術、特にインクリメンタルSAT解法、を適用し評価を行うことである。最終年度はこれまでの研究成果である極小活性パスウェイ同定問題とその解法、実験結果を博士論文の一部としてまとめ、さらに研究を発展させるために極小活性パスウェイの同定を大腸菌における単一遺伝子欠損の影響予測に適用した。極小活性パスウェイの同定に関する成果は、雑誌論文として発表し、単一遺伝子欠損の影響予測については国際会議論文として発表を行った。このように得られた研究成果をより実際的な生物学の問題へ適用し結果を得ていることが成果として評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果として大腸菌の単一遺伝子欠損の影響予測手法の開発があるが、今後はこの予測手法を発展させることが課題の一つである。具体的には遺伝子の複数欠損の影響予測や、マウスなど他のモデル生物について実験結果を評価・解析することが挙げられる。 これに加えてSAT技術を利用した計算手法の継続的な研究が必要である。特に漸増的に計算を行っていくインクリメンタルSAT解法には、実世界の問題において様々な応用が存在する。インクリメンタルSAT解法についてより詳細な評価と応用を考えることも今後の課題である。
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