本研究の目的は、1910~50年代の日本において、美術史学がどのような経緯で学術研究の一領域として確立したのかを明らかにすることである。2010年度には、以下の調査と研究発表を行なった。1.当該時期の美術史研究の研究費受給状況を把握するために、東京大学史史料室、日本学術会議などが所蔵する関連資料の調査を行なった。これにより、美術史学が研究費をより有利に受給するための体制を整備してゆく過程で、いかにして学術研究として自立していったのかを検証することができた。2.当該時期の帝国大学における美術史学講座の運営状況を知るために、東北大学史料館、京都大学大学文書館などが所蔵する関連資料の調査を行なった。これによって、研究者を養成する場である大学が、美術史学という学問を成立させるために果たした役割を具体的に分析することができた。3.口頭発表「美術全集の成立・展開・変容」を行ない、1920年代の円本美術全集『世界美術全集』が、"家庭"を対象に頒布され、同時に専門研究者の動員にも関与した点で、明治期の美術史書籍とは異なる機能を実現させたことを指摘した。また口頭発表「The "Export" of Artistic Crafts to Foreigners Visiting Kyoto in the Modern Period」では、美術史学と観光産業との関係が、来日外国人への美術工芸品販売をきっかけとして形成されたことに言及した。この2つの発表により、美術史学がアウトリーチ機能をどのようにして備えるようになったのかを提示した。4.1920~50年代のラジオ・ドラマ、講談、児童書を調査し、こうしたサブカルチャーが公衆の美術史理解にもたらした影響を考察した。これについては2011年度に口頭発表を行ない、成果を公表する予定である。ほかに論文2篇を執筆し、査読誌への投稿を行なった。
|