今年度は、前年度までの周波数変調(frequency modulation : FM)検出方式原子間力顕微鏡(atomic force microscopy : AFM)を用いた研究によって初めて明らかにされた抗体分子(マウス由来抗ヒト血清アルブミンモノクローナルIgG抗体)の秩序的な6量体および2次元結晶化現象に関して、その生化学的な意味を明らかにすることを目的として秩序的な高次構造(4次構造)の形成要因を詳細に検討した。その結果、抗体分子の結晶化は準生理的な溶液条件(pH7程度の電解質溶液中)においても形成されることが明らかとなり、マウスの体温に近い液温条件(37℃程度)においても、6量体および2次元結晶は維持されることを示した。いっぽう、弱酸性条件(pH5程度)では抗体分子には強い会合解離作用が働き、抗体分子の秩序的な会合構造が阻害されるとともに、高い濃度の遷移金属イオン(50mM ZnCl2もしくは50mM NiCl2)を含む水溶液中では、抗体分子を無秩序に凝集させる効果があることを確認した。以上の結果に基づき、イオン強度、そしてpHを準生理的条件に設定することで、秩序的な多量体・2次元結晶形成をきわめて再現性高く誘導することに成功した。そのうえで、抗体分子の2次元結晶表面に抗原性の分子(ヒト血清アルブミン:HSA)および構造が類似した非抗原性の分子(マウス血清アルブミン:MSA)の溶液を添加することで、抗体分子との特異的ないしは非特異的な吸着状態のAFM観察を行った。その結果、抗原性の分子を含む溶液を添加した場合にのみ2次元結晶表面への多数の分子吸着が観察され、2次元結晶中で各々の抗体分子は免疫活性を失っていないことを示した。抗体分子の多量体化は本研究で主に用いたモノクローナル抗体だけでなく、市販のモノクローナル抗体分子においても明瞭に確認された。将来、抗体分子の自己集積作用と抗原抗体反応を利用したナノバイオセンサーの高集積化・高感度化が実現すると期待される。
|