研究代表者らは消化管の幹細胞マーカー候補doublecortin and CaM kinase-like-1(以下Dclk1)の正常腸管および腸腫瘍における役割の解析を目的として、平成22年度は以下の実験を行った。 1.免疫染色・qRT-PCRによるDclk1のマウスおよびヒトの正常組織・腫瘍(大腸癌)における局在・発現解析 C57BL/6のWTマウスに対して抗Dclk1抗体を用いた免疫染色を行い、マウス正常腸管で腸幹細胞が存在すると考えられる腸管crypt底部を中心にDclk1陽性細胞を認めた。腸腫瘍モデルマウスであるA_pc^Minマウスでは、腫瘍においてDclk1陽性細胞が増加していた。qRT-PCRで、マウス腸腫瘍において正常組織よりも有意にDclk1 mRNAの発現量が増強していることを確認した。 さらに、ヒト腸管および大腸癌におけるDCLK1陽性細胞の局在を確認し、マウスと類似の発現パターンを認めた。これらのことから、Dclk1はマウスおよびヒトにおける正常組織の腸幹細胞あるいは癌幹細胞マーカーである可能性が考えられた。 2.Dclk1-Creマウスの作出とlineage tracingの開始 Dclk1の開始コドン以降にCreERT2-IRES-EGFPコンストラクトを挿入したターゲッティング・ベクターを用い、400個のES細胞から21個の組替えクローンを樹立した。2回のインジェクションにより、6匹のキメラマウスおよび2系統のジャームライン・トランスミッションを獲得した。現在は同マウスと、Rosa26レポーターマウスとの交配を行い、正常腸管上皮におけるDclk1陽性細胞のlineage tracingを行っている。また、同ノックイン・マウスでは、Dclk1 nullマウスの作出が可能であり、その表現形解析を展開中である。
|