研究概要 |
本年度は,次の2つのテーマについて研究を遂行した. 1.量子極限にある異方的s波超流動体の渦芯束縛状態. 近年,東工大の実験グループにより,量子極限にある異方的s波超伝導YNi_2B_2Cの渦に関して,高空間分解能をもつSTS測定が行われた.本研究では,このグループの実験結果が,量子化された渦芯束縛状態を捉えていることを,理論解析により示した.この量子性を明らかにしたことは,非可換統計に従う渦の実現に向け,渦芯の量子化されたMajorana状態を捉えることに繋がる重要な進展である.具体的には異方的超流動体を想定したBogoliubov-de Gennes理論の数値解析を行い,実験と定性的に一致する局所状態密度を得た.そして,STSスペクトルの特徴へ理論的説明を与えた. 2.人工ゲージ場中のスピノールBose-Einstein凝縮(BEC)の基底状態 近年,中性原子気体に対して,レーザーを用いた非可換ゲージ場の人工的な印加が成功され,注目を集めている.この系のBECは,非自明な空間変調が基底状態として実現しうる点で興味深い.また,レーザーの調整により,様々なゲージ場を発生させることができる. 一方,2成分(擬スピンF=1/2)BECでは,トポロジカルに非自明な空間構造として,3次元skyrmionの存在が指摘され,その安定性が議論されてきた.しかし,未だ実現する証拠は得られていない. 本年度の研究では,このような3次元skyrmionの安定性に対する,非可換ゲージ場の影響を,一粒子ハミルトニアンの変分解析とGross-Pitaevskii方程式の数値解析により調べた.そして,Rashba型スピン軌道相互作用を3次元に拡張した非可換ゲージ場と,球対称トラップによって,3次元skyrmionが基底状態として自発的に現れることを明らかにした.また,3次元的ゲージ場を2次元,1次元的にゆがめることで,3次元skyrmionの2次元,1次元skyrmionへの連続的な転移が起こることを解明した.これらの振る舞いはKawakamiら(2011)で示した,ヘリカル変調の概念を用いると統一的に理解できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通に示していた,^3Heの非可換統計性を示す量子渦に関する理論構築や,非可換性を示す1/3量子渦が実現する状況に関する理論構築を明らかにして来たことに加え,近年では新たな「非可換性」として,ゲージ場の持つ非可換性に関する研究を重点的に進展させることができた.この概念は,計画当初は注目されていなかったものであり,その意味で「非可換性を持つ量子渦の理論研究」として,計画当初以上の成果を収めている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度行って来た,非可換ゲージ場中のBose-Einstein凝縮における3次元スカーミオンの安定性に関して論文をまとめ,速報誌へ出版する.また,その周辺にまつわる詳細な解析を行う.特に,得られた3次元スカーミオンの観測に向けた,トラップやゲージ場をオフにした時の実時間発展の解析や,3次元スカーミオン基底状態の持つ集団励起モード等を解析する.そして,その結果を本論文としてまとめて出版する. また,非可換統計性に従う渦を持つ系として,人工ゲージ場中の冷却原子フェルミ超流動体が注目されている.本年度までに,人工ゲージ場中のボーズ粒子系について研究を行ってきており,そこで得た知識を活かして,この系の研究に取り組むことを予定している.特に,この系では,渦が非可換統計性に従うトポロジカル相と,そうでない非トポロジカル相の相転移を,外場の調整によって引き起こすことができるため,興味深い.この相転移に伴う物性の解明を,今後の研究方針として考えている.
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