研究課題
研究代表者(以下代表者)は平成22年度、申請課題である垂直磁気異方性を有する強磁性細線中の磁壁電流駆動に関する研究に従事した。研究の主な目的は、電流による磁壁移動メカニズムの解明を通して磁壁移動に必要な電流密度(閾電流密度)の低減を実現、および磁壁移動速度の評価を行うことである。今年度は、閾電流密度は細線の線幅および膜厚に依存する量であるという理論予測を踏まえ、申請書に記載した研究実施計画に基づき閾電流密度の細線幅および膜厚依存性の調査を行った。本研究で使用した強磁性体は垂直磁化Co/Ni多層膜であり、具体的な研究方法は申請書に記載されている通りである。まず、代表者は微細加工時の条件を最適化することによって40nmレベルの幅を持つ微小細線を少ないラフネスで加工することに成功した。40nmから300nmまで細線幅を変化させたCo/Ni細線を準備し、それぞれの細線で閾電流密度を調べたところ、線幅が細くなるにつれて閾電流密度は減少していくが70nmよりも細くなると逆に増加することがわかった。さらに、閾電流密度の細線幅に対するこのようなふるまいは、安定な磁壁構造の変化に由来するものであることもわかった。以上の実験結果は、スピントランスファモデルに基づく磁壁移動理論で説明可能であるとともに、Co/Ni細線において磁壁が純粋なスピントランスファ効果で移動していることの強固な証拠を世界で初めて示したものであり、Nature Materials誌に掲載されている。また、膜厚の異なるCo/Ni多層膜を用いて閾電流密度を調べたところ線幅36nmの細線において1.6×10^<11> A/m^2という非常に小さな閾電流密度が得られた。この値はこれまで他の材料で報告されてきた値と比べて1桁小さく、微細化と低電流密度動作が両立可能であることを意味しており応用上極めて重要な結果である。
すべて 2011 2010 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Nature Materials
巻: 10 ページ: 194-197
Applied Physics Express
巻: 3 ページ: 073004
Journal of Physics Conference Series
巻: 266 ページ: 012110
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2010/110221_1.htm