本年度のホログラフィックデータストレージ(HDS)の研究における成果は以下の通りである。 HDSの信号処理に関する研究では2次元の有限インパルス応答(FIR)型の等化器を実数値遺伝的アルゴリズムにより最適化し、従来の平均二乗誤差最小化(MMSE)等化器と比較してより良好なビットエラー率(BER)特性が得られた。加えて、自動利得制御(AGC)による再生信号の輝度値補正がエラー補正に有効であることを明らかにした。 また、媒体評価に関する研究では、HDSの記録媒体であるフォトポリマーについて、開始反応・成長反応・停止反応という3つの素反応からなる反応拡散モデルを提案し、実験結果と比較を行った。加えて、Levenberg-Marquardt法を用いることで、実験結果とモデルによる結果のフィッティングを行うことで、開始率や成長率といった媒体に特有のパラメータを見積もることが可能になった。 上記のテーマから派生したロッドレンズに関する研究では次のような成果が得られた。 HDSにおける記録材料に関する研究で得た知見を生かし、高分子製ロッドレンズの製造工程に関してシミュレーションによる解析を行った。この研究では、芯ファイバーに対して高分子溶液を賦形し、中心方向へ拡散させる過程を拡散モデルにより表し、有限体積法によって溶液の濃度分布の時間変化を解析した。加えて、Lorentz-Lorenzの式により、屈折率分布を求め、この結果が実際に測定した分布を再現することを確認した。また、シミュレーションによりロッドレンズの性能を評価する方法を開発した。この方法では矩形波チャートに形に合わせてモンテカルロ法により多数の光線を生成することで、実際のMTF測定系に準じた評価を行う。本手法によるMTFの評価では、従来の点光源を用いた光線追跡法による評価と比較して、より実験結果と近い結果が得られた。
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