研究概要 |
本研究の目的は,近赤外線分光法装置によって,生後1年に満たない乳児の顔処理発達の神経基盤を検討することである。乳児の顔処理能力の発達は主に乳児の注視行動を指標として検討されてきており,脳機能の発達との関連を示す知見は数少ない。顔観察時に生起する乳児の脳血流反応を計測することによって,顔処理能力の発達と脳機能の発達との関連を明らかにすることにつながる。 H23年度は,顔向きの変化に関わらず同一人物の顔を認識できるかの検討を計画していた。この実験については,すでに実験を完了し,H22年度に行った実験のデータとともにFrontiers in Human Neuroscience誌に発表した。 今年度は,生後5-8ヶ月児が顔のサイズの変化に関わらず同一人物の顔を認識しているか,これまでの実験と同様の手続きを用いて近赤外線分光法によって検討した。計測の結果,生後5-8ヶ月児は顔の大きさが変わっても,同一人物の顔に対して脳活動の低下(神経順応)が生じたことから,乳児は顔の大きさが変化しても同一人物の顔を認識できることが示唆された。この研究成果について,包括脳型脳科学研究推進ネットワーク夏のワークショップ(神戸国際会議場,2011年8月),日本基礎心理学会第30回大会(慶応義塾大学,2011年12月),第45回知覚コロキウム(清里高原清泉寮,2012年3月)でポスター発表を行った。2012年6月にはInternational Conference on Infant Studiesにおいてポスター発表を行う予定である。 その他,2012年2月にThe University of TorontoのKang Lee教授の研究室に1週間弱滞在し,研究室見学および研究計画の打ち合わせを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H23年度の当初の計画では,顔向きの変化に関わらず同一人物の顔を認識できるかの検討し,査読付き論文誌への投稿までを予定していた。しかし,この実験についてすでに実験を完了し,H22年度に行った実験のデータとともにFrontiers in Human Neuroscience誌に発表したことから,当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では乳児の側頭領域における顔処理の神経基盤を検討することを目的としている。申請者が行った現在までの実験で,1)乳児の側頭領域が人物同定に関与しており,2)人物同定は顔の大きさの変化に依存しない,3)向きが変化しても同一人物の顔だと認識できるのは生後7ヶ月頃からであることが明らかにされた。より乳児の人物同定過程を詳細に検討するためには,申請時には計画していなかった口や目などの顔のパーツの動き(non-rigidmotion)に関わらず人物同定ができるかを検討する必要があると考え,今後この点について近赤外線分光法を用いて検討を行う予定である。
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