研究概要 |
本年度は,以下2点の研究を中心に進めた。第1は,明治・大正期における食品製造業者の輸移入原料調達について,醤油醸造業者 高梨兵左衛門家を事例に考察したことである。本研究では,(財)高梨本家上花輪歴史館所蔵高梨家文書を利用し,醸造業者による原料調達のあり方を大豆・小麦・食塩について明らかにした。醤油醸造量の増加に伴う醤油価格の下落によって1890年代から「製品安・原料高」の状況に陥ったことで,高梨家は輸移入原料を調達するようになった。こうした輸移入原料には,内地産原料との品質的な相違点もあった。そこで高梨家は,先行研究で指摘されてきた価格面での有利性に留まらず,品質面でのデメリットへの周到な対応を伴いつつ,「製品安・原料高」の状況下における経営戦略の一環として輸移入原料調達を実行していたことを明らかにした。 第2は,戦前期台湾・関東州製塩業における日系資本の進出過程について,野崎武吉郎家と大日本塩業株式会社を事例に考察したことである。日清・日露戦直後から進出した日系資本は基本的に内地への原料調達を担う意図を有さなかった点を指摘した。一方で,内地で食塩需要が急拡大した第1次大戦期以降は曹達会社など食塩需要者が勢力圏下製塩業へ進出した。以上を踏まえ,原料資源が有する国家にとっての重要性が変容した第1次大戦期を画期に,日系資本による対外進出の動機が変化した可能性を示唆した。 以上に示した本年度の研究は,「研究実施計画」における食塩の生産と消費を考察する作業に該当する。これらの研究,.さらには食塩の流通及び取引について考察した昨年度の研究を踏まえ,次年度は塩専売制度の導入と運用の過程を考察する計画である。
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