研究概要 |
〈祖先遺伝子との機能分化〉 オオムギ条性決定遺伝子Vrs1はイネ科で保存されたHvHox2遺伝子(第2染色体短腕)の重複によって生じたコピー遺伝子が機能分化することで出来たオオムギ属特有の遺伝子であることが明らかになった.遺伝子重複による機能分化について詳しく知るためVrs1遺伝子とHvHox2遺伝子の比較解析を行った.HvHox2遺伝子の幼穂における発現は各発達段階を通じてほぼ一定だった.一方,Vrs1遺伝子は発達が進むにつれて発現量が上昇し,芒の分化が始まる時期から雌蕊の分化が始まる時期でピークを迎えた.二条オオムギの側列小穂では雌蕊の発達は完全に抑えられ機能を失っているが雄蕊は花粉を形成するまでに発達することがある。Vrs1遺伝子の発現パターンから雌蕊の発達を強調して抑えているという仮説が立てられた. 〈遺伝子重複の領域と時期〉 Vrs1, HvHox2遺伝子領域のBAC配列を決定し,アノテーションを行ったところ,Vrs1遺伝子領域では上流約80kbに遺伝子様配列(HvPG1)が存在するが,HvHox2遺伝子領域では上流約2kbの位置に相同性の高い遺伝子様配列(HvPG2)が見つかった.両者の遺伝子間距離の違いはVrs1側でのトランスポゾンの挿入による.イネでは,HvHox2オーソログとHvPG2相同配列(転写が確認されていない)の遺伝子間距離は約4kbでありHvHox2とHvPG2の距離と近かった.この結果はHvHox2側が構造的に保存され,Vrs1側に多くの変異が集積していることを示す.供試したすべてのオオムギ属野生種でVrs1,HvHox2ホモログが増幅した,配列を決定し系統解析を行ったところ,既存の系統樹とほぼ同じ結果を得た.Vrs1におけるC末端モチーフの欠損も全ての種に共通していた.以上のことからHvHox2の重複はオオムギ属内で種分化が起こる前に生じたことが推測される.
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