研究課題
これまでの研究で、DNA架橋修復に重要なFANCD2タンパク質が、そのC末端170アミノ酸でクロマチンの構成因子であるコアヒストンと相互作用し、それをDNA上へとアセンブリーする活性を有することを明らかにしてきた。そこで、FANCD2のヒストンシャペロン活性の分子メカニズム及びDNA架橋修復との関連性をより詳細に明らかにするため、生化学的、遺伝学的手法を用いて解析を行った。まず、FANCD2のヒストンシャペロン活性の分子メカニズムを解明するため、ニワトリFANCD2(cFANCD2)のC末端170アミノ酸においてアラニンスキャニングを行った。作製した多数の点変異体をそれぞれHEK293T細胞にて発現させ、ヒストンH3/H4複合体ビーズを用いてpull-down assayによりヒストンH3/H4複合体との相互作用を解析したところ、FANCD2のR1336、K1346、R1370、V1371、K1372がヒストンH3/H4複合体との相互作用に重要であることが明らかになった。これらのアミノ酸はヒトから昆虫という幅広い生物で保存されていた。次に、cFANCD2(R1336A/1346A)及びcFANCD2(R1370A/V1371A/K1372A)を大腸菌リコンビナントタンパク質として高純度に精製し、supercoiling assayを用いてヌクレオソーム形成活性を解析したところ、いずれの点変異体もヌクレオソーム形成活性が著しく低下した。この結果から、FANCD2のヒストンシャペロン活性にはC末端のヒストン結合ドメインが必須であることが明らかになった。更に同変異体をFANCD2欠損細胞にノックインしてもDNA架橋剤への感受性が相補されなかったため、FANCD2のヒストンシャペロン活性がDNA架橋修復において極めて重要な反応であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の実験計画では、FANCD2-histone H3/H4複合体の構造解析によりFANCD2の重要なアミノ酸を決定する方針であったが、FANCD2のC末端領域の詳細な解析を通して、FANCD2におけるヒストン結合部位の詳細なマッピングに成功し、FANCD2のヒストンシャペロン活性の分子メカニズムがおおよそ明らかになった。そのため、これら平成23年度の実験によって平成24年度に行う予定の研究のほとんどが完了した。
本研究で唯一残されている課題はFANCD2-ヒストンH3/H4複合体の結晶構造解析である。そのため、平成24年度の研究はFANCD2-ヒストンH3/H4複合体の結晶構造解析に重点を置く。すでにFANCD2-ヒストンH3/H4複合体の結晶化に着手しているものの、未だ結晶は得られていない。一方で、FANCD2単体においては解析可能な大きさの結晶を得ることができている。そのため、残りのヒストンH3/H4複合体のコンストラクジョンを検討することで複合体の結晶を得たいと考えている。これまで報告されたヒストンシャペロン-ヒストンH3/H4複合体の構造ではヒストンH3はN末端60アミノ酸程度がディスオーダーしているため、ヒストンH3のN末端を欠失させたコンストラクションを構築し、これをFANCD2-ヒストンH3/H4複合体の結晶化に用いたい。
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Cancer Research
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