研究課題
これまでの研究で、DNA架橋修復に重要なFANCD2-FANCI複合体がヒストンシャペロン活性を有しており、FANCD2が触媒サブユニットとして、FANCIが活性調節サブユニットとして働くことを見出してきた。更に、FANCD2はC末端領域でピストンH3/H4複合体と相互作用し、ニワトリFANCD2(cFANCD2)においてアミノ酸R1336とK1346がヒストンシャペロン活性に重要であることを明らかにした。また、このFANCD2変異体をDT40細胞にノックインしても、DT40細胞のDNA架橋剤への感受性が相補されなかったことから、FANCD2のヒストンシャペロン活性はDNA架橋修復に重要な役割を果たすことが示唆された。平成24年度は、DNA架橋修復の不全で発症するファンコニ貧血という遺伝病と、FANCD2のヒストンシャペロン活性の関連性を解析した。ファンコニ貧血患者では、ヒトFANCD2 R302Wの変異が見つかっている。cFANCD2 R305Wをリコンビナントタンパク質として精製し、スーパーコイリングアッセイによりヒストンシャペロン活性を測定したところ、野生型FANCD2に比べ著しくヒストンシャペロン活性が低下していた。更に、この変異体をDT40細胞にノックインしたところ、DNA損傷依存的にクロマチンに集積するものの、DNA架橋剤への感受性は完全には相補されなかった。また、FANCD2をノックダウンしたHeLa細胞において、ヒトFANCD2 R302Wの変異体を発現させても、ピストンH3の細胞内動態は相補されなかった。これら一連の解析で、DNA架橋修復においてFANCD2のヒストンシャペロン活性は、ID複合体がクロマチンに集積した後に重要な役割を果たすこと、そしてヒストンシャペロン活性を低下させる変異がファンコニ貧血の原因になりえることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究により、本研究課題の中核をなすFANCD2-FANCI複合体のヒストンシャペロン活性の分子メカニズム、そしてその活性のDNA架橋修復における重要性を明らかにすることができた。特に、FANCD2-FANCI複合体が損傷部位へ集積した後に、ピストンH3/H4複合体の動態を制御することでDNA修復を触媒するという全く新たなモデルを提唱することができた。
本研究課題では、FANCD2・ピストンH3/H4複合体のX線結晶構造解析を行う予定であった。この解析を行うために、まずリコンビナントタンパク質として精製した際に均一になるFANCD2を設計し、ほぼ全長のFANCD2を結晶化することに成功した。しかし、このFANCD2とヒストンH3/H4複合体を混合しても結晶を得ることができなかった。これは、高濃度においてFANCD2とヒストンH3/H4複合体が非特異的な相互作用をすることに起因すると考えられる。そこで、今後はFANCD2のヒストン結合領域であるC末端断片を設計し、ヒストンH3/H4複合体と共発現させることで、均一な複合体をリコンビナントタンパク質として精製することを目標とする。ピストンH3/H4複合体とFANCD2の共発現系の作製は既に作製しており、今後精製と結晶化を行っていく。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
The EMBO Journal
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