研究概要 |
まず基礎作業として秦漢代簡牘に関するデータベースの充実・正確化を図り、釈文・図版と対校しつつ修訂・入力を行った。主要な簡牘は既存のテキストデータの修訂および整理が中心となったが、かなりの数に上る誤字・脱字の修正を要した。またまとまった報告書が出版されていない散在する簡牘についてもピックアップと入力を進めた。これら基礎作業は来年度以降も継続の必要がある。 漢代簡牘全般に対する資料分析と先行研究調査を進めていくなかで、漢簡の知見をより古い時代の簡牘研究に応用しうる手応えを得た。そこで着想を得た結果は「包山楚簡の[宀邑]と[宀邑]大夫」(『史林』第93巻第4号)として公表した。本稿では包山楚簡に見られる[宀邑]なる文字について、従来有力であった「県」とする説を否定し,地方行政単位に附置された機構にすぎないことを論証した。同じく漢代簡牘の文書学的知見を活用して包山楚簡を検討した成果が、日本秦漢史学会における口頭発表「包山楚簡の背面有字簡」である。包山楚簡のいくつかが背面に文字を有することに着目し、筆跡とそこから判明する文書作成地を整理分析することで戦国楚における文書行政の一端を解明した。特に訴状等の正本が逓送に供されていたことは包山楚簡に特徴的な点である。これらの成果は、文字・思想方面からの研究が主流になっている楚簡研究に制度史的・文書学的な観点を援用したものである。以上、形になった成果としては漢代「前史」に限られたが、それは本年度の漢代簡牘研究を通して得られた知見の応用に他ならない。 このほか、中央研究院歴史語言研究所・古代文明研究室より招聘を受け、中国語にて報告者の博士論文に関する講演を行った。また中国・西北大学の協力を得て西安・威陽の秦漢代遺址および陜西省歴史博物館・咸陽市博物館等の現地調査を実施した。
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