これまでに建設を進めてきた超高分解能スピン分解光電子分光装置の最終調整を行った。検出器の感度比やバックグラウンドの補正方法を確立し、データの信頼性を向上させた。バックグラウンドノイズをより減少させるため、長時間のベーク・高電圧印加を行った。各電極における印加電圧の調整、残留ガスの除去や流入ガスの遮蔽による到達真空度の向上など、装置全体の性能も高めた。 建設した装置を用いて、Si上に作成したV族半金属Bi薄膜のRashba効果についてスピン偏極率の膜厚依存性を測定した。その結果、膜厚が薄くなるにつれて表面バンドのスピン偏極率が小さくなることを明らかにし、SiとBiの界面においても、表面と同様なRashba効果を示す可能性を初めて明らかにした。以上の結果は米国化学誌Nano Lettersに掲載され、国内外の学会にて発表を行った他、多数の新聞で報道された。また、Rashba効果による表面バンドのスピン偏極率がバルクバンドから受ける影響について明らかにするため、Sbのスピン分解ARPES測定を行った。その結果、バルクバンド射影内において表面バンドのスピン偏極率が減少する様子を観測し、バルクバンドと表面バンドの混成がスピン偏極率に与える影響を実験的に明らかにした。この結果は、日本物理学会(2012年秋季大会)にて発表した。さらに、トポロジカル相転移による表面ディラックバンドのスピン構造の変化を明らかにするため、TlBi(S_<1-x>Se_x)_2のスピン偏極率の波数および組成依存性をスピン分解ARPESにて決定した。xを変化させた各組成でスピン偏極率を測定した結果、Se濃度(x)の減少とともにスピン偏極率が弱くなり、TlBiS_2(x=0.0)ではスピン偏極率がゼロであることを実験的に初めて観測した。以上の結果は、米国物理学誌Phys. Rev. Lett.に掲載された。
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