本年度の研究目的は、向社会的行動の表出・非表出に関するメカニズムを検討することであった。先行研究の多くは、目に見える具体的な援助や分与行動に焦点を当てているが、本研究では顕在化しないが思いやりに基づく行動(待つ、見ている)なども向社会的行動として取り上げることとした。 1.調査実施協力を得た学校との議論の上、研究2として計画した「社会的葛藤場面での向社会的行動の援助内容における発達的変容」の一部を実施した。 目的 場面の性質によって、向社会的行動の内容に関する認知が、どのような影響を受けるのかを検討する。 方法 対象は公立小学校4年生・6年生185名とし、質問紙調査を行った。 結果 「公平性」「自立性」の場面については、学年差は見られなかったが、「責任性」の場面(誰にも見つからないような場所で友だちが泣いている)では、「非表出的行動」を選択する人数が、6年生で「一番いい」と評価する人数が有意に多かった。以上より、向社会的行動の評価には、場面性質や対象者の発達がかかわっていると考えられる。これまで焦点があてられてこなかった「非表出的行動」の重要性認知にも関連して重要な知見である。 さらに、選択理由について検討したところ、共感的側面を重要視する日本特有の文化の表れがみられた。 2.向社会的行動研究に関して、知見を得るため、学会に積極的に参加し、自らの研究内容の発表や、他の研究者との議論を行った。その結果、外面に顕在化しないが、思いやりに基づく行動について、まだ研究知見は乏しいと思われ、本研究の独自性が確認された。 3.向社会的行動に深く関連していることが指摘されている共感性について、詳細に検討するために実施した研究を論文化し、認知機能の総称である実行機能と感情理解、共感性の関連を明らかにした。
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