研究概要 |
開花フェノロジーは植物の適応度に影響する重要な生活史形質である.近年,地球温暖化など物理的環境の人為的撹乱によって開花フェノロジーが急速に進化していることが報告されている.しかし外来種の侵入など,生物的撹乱に対する開花フェノロジーの急速な進化を検証した例はまだない.本研究では,侵人昆虫ブタクサハムシの食害がブタクサの開花フェノロジーに対して,どのような進化的影響を与えているかを,過去に採集したブタクサ種子を用いて検証した. ブタクサは北米原産の一年草で,7月に開花し始め10~11月に大量の種子を生産する.日本に侵入して以降天敵がほとんどいなかったが,最近では1996年に北米から侵入したブタクサハムシによって激しく食害されている.われわれは,つくば市の農業環境技術研究所圃場にて1998,2000,2002,2006,2009年に採集されたブタクサ種子を発芽させ,同圃場にて栽培した.全株のうち半数を食害区、残りの半数を薬剤処理した非食害区として,ブタクサハムシの食害がブタクサの開花フェノロジー与える選択圧と,1998年以降の開花フェノロジーの進化を調べた. ブタクサハムシの食害はブタクサの開花後期に激しくなり、花芽形成が遅い個体ほど結実できずに枯死した.また結実できた個体でも、花芽形成遅い個体ほど最終的な種子の生産量が少なかった.選択勾配分析を行ったところ、食害区では早い開花への強い方向性選択か検証され、非食害区では開花時期には安定化選択が働いていた.これはブタクサハムシマの食害が、ブタクサの早い開花時期への選択になっていることを示唆する.しかし,非食害区における過去のブタクサの開花フェノロジーを比較したところ,開花が早期化するような進化は観察できなかった.早い開花への選択があるにもかかわらず,開花の早期化が起こってない理由としては,選択圧の空間的・時間的な不均一性,埋土種子の効果などが考えられる
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