多くの外来植物は原産地の天敵から逃れている。そのような外来植物では、天敵に対する防御物質への投資を減らし、成長や繁殖への投資を増す方向に進化が起きると予測されている(EICA仮説)。実際に、この予測どおりの変化がいくつかの外来植物で確認されている。しかし、これまでは、食害を受ける前の防御レベル(=構成的防御)を原産地と侵入地で比べた研究がほとんどあった。一方で、食害を受けたあとに、防御レベルを上昇させることが、多くの植物で知られている(=誘導防御)。本研究では、外来植物ブタクサAmbrosia artemsiifoliaの原産地集団と侵入集団を用いて、天敵ブタクサハムシOphraella communaに対する構成的防御と誘導防御のレベルを調べた。 ブタクサの原産地であるアメリカ合衆国の5集団、侵入地である日本の3集団から種子を採集し、九州大学圃場で栽培した。成長したブタクサ株の半数にブタクサハムシによる食害を与え(食害区)、残りの半数はブタクサハムシの食害を受けないように栽培した(非食害区)。その後、食害区・非食害区のブタクサを餌にブタクサハムシを1齢幼虫から成虫になるまで飼育し、死亡率と成虫の乾重量を測定しブタクサの防御レベルの指標とした。 非食害区のブタクサを用いた実験では、侵入地集団で育てたブタクサハムシの方が原産地集団で育てたハムシよりも死亡率が低く、成虫時の乾重量は重かった。すなわち、侵入したブタクサ集団では、構成的防御のレベルが低下していた。食害区のブタクサを餌として与えた場合には、侵入地集団のブタクサ・原産地集団のブタクサ両方で、非食害区のブタクサを与えた場合よりもブタクサハムシの死亡率は上昇し、成虫の乾重量は低下した。すなわち、侵入したブタクサ集団では、誘導防御のメカニズムが維持されていた。誘導防御は構成的防御に比べてコストがかからないので、天敵のいない侵入地環境下でも、長い間維持されるものと考えられる。
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