研究課題/領域番号 |
10J02870
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡村 雅普 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 重力レンズ / 構造形成 / 暗黒エネルギー / インフレーション / 観測的宇宙論 |
研究概要 |
本研究課題はすばる望遠鏡次世代主焦点カメラ、HSC(Hyper Suprime Camera)で展開される大規模撮像サーベイの主目的である「宇宙大規模構造による弱重力レンズ効果の観測に基づく宇宙論」を理論・観測双方からサポートするものである。本年度の主な結果は以下の通りにまとめられる。(1)前年度においてすでに申請者が完成させていたラグランジュ的再和法にもとづく宇宙大規模構造のパワースペクトル6次摂動モデルを、実際の観測で用いられる赤方偏移空間に拡張することに成功した。これによって、実際の観測条件と理論モデルの仮定条件が一段階近くなり、より現実的なモデルを構築することができたと評価できる。加えて、バリオン音響振動を用いて暗黒エネルギーの状態方程式を詳細に探るのみならず、赤方偏移空間で初めて現れる赤方偏移歪み効果を測定する事で非常に大スケールにおいて一般相対性理論が破綻していないかを詳細に検証できる可能性が期待できる。(2)大規模撮像サーベイによって得られる銀河の位置と歪みの情報を組み合わせて、大スケールにおける銀河バイアスを詳細に調べる事で、インフレーション起源の始源非ガウス性を検出する手法を提案した。さらに本手法が大規模構造によって引き起こされる増光効果から受ける影響を詳細に調べ、増光効果を取り除く手法を構築した。本結果により、大規模撮像サーベイから無バイアスかつ詳細なインフレーション理論検証が行えることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究目的」は以下の三つである。A.弱い重力レンズ効果の解析手法向上、B.弱い重力レンズ効果と銀河分布を組み合わせた解析によるインフレーション理論検証方法の提案、C.ラグランジュ的再和法を用いたパワースペクトルの高精度モデルの構築。Aに関しては具体的な解析手法の改善には至っていないが、既存の手法の問題点を洗い出す事ができた段階であり、一定の成果をあげたと評価できる。Bに関しては、成果をまとめた論文を発表済みであり、当初の目的は達成できた。Cに関しては、高精度モデルの構築はすでに完了し、シミュレーションとの比較を残すのみである。総合的に判断すると、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
赤方偏移空間で構築されたラグランジュ的再和法に基づくパワースペクトルモデルとシミュレーションを比較し、新モデルの精度検証を行う。次に、ハローバイアスも考慮したモデル構築に取り組む。特に、従来は考慮されていなかった「ハロー内で速度分散が実効的に小さくなる現象」を取込んだモデルを新たに構築することを最大の目標とする。可能であれば、構築したモデルとシミュレーション結果を比較し、モデル精度の検証を行う。
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