本研究課題はすばる望遠鏡次世代主焦点カメラ、HSC(Hyper Suprime Camera)で展開される大規模撮像サーベイの主目的である「宇宙大規模構造による弱重力レンズ効果の観測に基づく宇宙論」を理論・観測双方からサポートするものである。本年度は(1)宇宙大規模構造の弱い非線形性に関する理論的研究、(2)弱い重力レンズ解析の系統誤差評価に関する研究に取り組んだ。(1)においては、バリオン音響振動ピークのモデル作成に対してラグランジュ描像に基づいた強力な手法を開発した。バルク流が引き起こすバリオン音響ピークの不鮮明化に対して、ラグランジュ描像を用いた理解を試みた。大スケールにおいて、重力非線形成長を切り離してバルク運動のみを考慮した定式化を行い、相関関数に現れるバリオン音響ピークの不鮮明化を定量的に明らかにした。その中で、バルク流が完全にランダムではないことにより、不鮮明化が10%程度抑えられることを示した。またN体シミュレーションとの比較を行い、解析的な結果の妥当性を検証した。(2)においてはすばる望遠鏡で観測されたstar fieldを用いて弱い重力レンズ効果の系統誤差を光学収差・大気揺らぎ・画像合成時におけるCCDチップの整列誤差に分解した。光学追跡シミュレーションを用い3つの効果の寄与の大きさを予測し、star fieldの観測結果と比較、シミュレーションの妥当性を確認した。その結果、光学収差による影響が最も大きいことが分かった。さらに本結果を宇宙大規模構造による弱い重力レンズ解析に適用した。重力レンズ効果のシグナルであるE-modeは理論予言とよく一致していることを確認した。一方で、重力レンズ効果ではなく系統的な誤差が起源であるB-modeも検出したが、star fieldで得られたモデルで説明できることを確かめた。
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