本研究では、てんかん関連分泌蛋白質LGI1のシナプスにおける生理的機能の解明を個体、細胞、分子レベルの縦断的解析により試みている。ヒトにおいて、てんかんを引き起こすLGI1の一塩基アミノ酸置換の多くはLGI1の分泌を阻害するが、本研究において、未評価の変異体から分泌活性を有する複数のLGI1変異体を新たに見出した。これら変異体ではシナプス間隙におけるLGI1の主要な生理機能の欠損が推測される。in vitroで作製したLGI1とADAM22の複合体の分子量をショ糖密度勾配遠心分離法によって同定したところ、あるLGI1変異体AではLGI1がホモ2量体化し、ADAM22との複合体形成が野生型と比較して約40%阻害された。よって変異Aによる、てんかん発症の原因としてADAM22との結合力の低下が示唆された。生理条件下におけるLGI1変異体Aの機能評価のために我々はLGI1変異体Aのトランスジェニック(Tg)マウスを作成した。LGI1ノックアウトマウスのてんかん発作がこの変異体Aによってもレスキューされないことを確認し、この変異体マウスを新たな疾患モデルマウスと位置づけることが可能となった。ショ糖密度勾配遠心分離法により脳内(in vivo)の蛋白質複合体の質量分布を網羅的に解析する実験系を立ち上げ、現在、野生型と変異体での蛋白質複合体形成の違いを検討している。一方、分泌阻害型のLGI1 E383A変異体のTgマウスも作成した。脳内でのLGI1結合蛋白質複合体を精製し、質量分析により蛋白質の同定を行ったところ、野生型では検出されない分泌過程に関与する複数の蛋白質が変異体では検出された。よって、分泌阻害の原因として分泌過程の蛋白質との結合強度の変化が考えられる。このようにLGI1変異体マウスを蛋白質レベルで解析し、てんかんの病態機構、および、LGI1の生理機能を明らかにしつつある。
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