日宋交流は、人・モノ・情報の移動が貿易商人(海商)の活動に付随して行われた点に特徴があり、なかでも鎌倉期は、日本と南宋(元)の間で仏僧の往来が極めて活発な時代といえる。本研究では、鎌倉期の日宋(元)交流を貿易と文化交流に大別して捉え、後者はとくに仏教交流を中心に検討する。 2010年度は、日宋貿易に関する論点を論文として発表した。それは、鎌倉幕府の貿易独占化政策の存在を想定し、13世紀後半以降の貿易の展開を幕府ないし北条氏による独占化の過程とみなす通説に対し、日宋間を往来した僧に関する史料を用いながら日宋貿易の展開過程を解明するなかで、再検討を迫るものである。まず、「鎌倉幕府の「唐船」関係法令の検討」(『鎌倉遺文研究』25)では、通説の根拠史料であった「唐船」に関する2つの幕府法は、幕府の独占化志向を必ずしも表すものではないこと、また両史料を基軸に貿易の展開を描くべきではないことを示した。それをうけて、「鎌倉中期における日宋貿易の展開と幕府」(『史学雑誌』119-10)においては、13世紀後半以降に幕府が貿易に対して積極的になる背景について、1246年、1247年に起こった鎌倉での政変に伴う宗教政策の転換によるものであった可能性が高く、貿易を主眼においた方針転換ではないこと、また幕府の影響力増大についても、幕府の強権性よりも博多で活動していた海商側が幕府を選び取った側面を強調すべきことを主張した。 また仏教交流に関する論点として、1250年代における幕府の宗教政策の転換について鎌倉禅の成立を中心に検討を進めているが、その成果の発表は今後の課題である。
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