視物質は動物の視覚を担う光センサー蛋白質であり、レチナールを発色団として持っている。脊椎動物の視物質は、暗所視を担う桿体視物質と、昼間視・色覚を担う錐体視物質に分けられるが、そのうち錐体視物質はさらに波長感受性の異なる4つのサブグループ(赤/緑、緑、青、紫/紫外)に分類される。各サブグループにはそれぞれ発色団の吸収波長制御のための固有の分子内機構が存在する。しかし、そのような分子内機構の違いが吸収波長以外の視物質の性質に与える影響は明らかになっていない。そこで本研究は、「波長感受性の異なる視物質間における分子内機構の違い」が「視物質と他の蛋白質との相互作用効率」に与える影響の検証を目的とする。特に、光を受容して活性化した視物質がすみやかに不活性状態に戻るために必要な反応である「キナーゼによる視物質のリン酸化」に注目して実験を行っている。 昨年度の研究において、錐体特異的なキナーゼであるGRK7と視物質を培養細胞に発現させ、GRK7による視物質のリン酸化を測定する系を確立した。そこで本年度は、GRK7によるリン酸化効率を波長感受性の異なる錐体視物質の間で比較することを試みた。まず、コイのすべての錐体視物質(赤・緑・青・紫外)を培養細胞に発現させたところ、赤色感受性視物質以外は十分量の蛋白質を得ることができた。次に、それらを用いてコイGRK7によるリン酸化効率を測定した。その結果、各視物質が光依存的にリン酸化されることを定性的には確認できた。しかし、錐体視物質の活性状態(リン酸化されうる状態)の寿命が短いことにより正確にリン酸化効率を比較できるには至らなかった。今後はこの点について検討を加える予定である。
|