本年度は、ツル植物が森林生態系の構造と機能に果たす役割のマルチスケール評価のためのデータ収集(野外調査と化学分析)、及び統計モデルの構築を行った。本年度の大きな成果の一つは、ツル植物の種特性と環境傾度に対する空間分布パターンの関係を記述する階層ベイズモデルを構築したことである。このモデルによって、既存研究ではツル植物の空間分布について、単に種間差として理解されていた部分が、光合成に関連した種特性の連続的な変化によって説明されることを明らかにした。この事は、既存研究では個別に行われていた空間分布に着目した研究と、種特性に着目した研究を統合した点に意義がある。もう一つの大きな成果は、リターフォール(落葉・落枝)を指標として、森林生態系機能への影響を定量化したことである。上記の空間分布パターンを推定するモデルに、リターフォールへの影響を組み込むことによって、リターフォールの空間パターンを記述するモデルを構築した。このモデルによって、既存研究では評価されてこなかった、森林生態系機能への影響の空間パターンについて定量的に評価することが可能になった。また、種レベルでの解析によって、個々の種のリターフォールへの貢献度を定量的に示した。これによって生態系へのインパクトの大きな種を特定することが可能になった。これらの成果は、研究実施計画に示した通り、国際学会及び国内の学会にて発表した。本研究で構築したモデルは、他の森林生態系機能に与える影響、たとえば、分解過程、土壌形成、栄養塩循環に与える影響を定量的に評価する際にも役立つと考えられる。
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