昨年度に開発したマウス胎児冠動脈注入法によって、エンドセリン1およびエンドセリンA型受容体ノックアウトマウスにて冠動脈中隔枝特異的な異常拡張が生じる事を確認した。凍結切片を用いた免疫組織学的染色により、異常拡張を呈した中隔枝においては、血管平滑筋細胞の収縮関連蛋白質の発現が局所的に欠落していた。また、表現系の出現時期については、E14.5までは胎児冠動脈注入法での差が認められないのに対して、E15.5頃から明らかになってくる事を確認した。これらの時期は冠動脈の成熟・リモデリング過程と時期が一致しており、冠動脈形態異常が血管リモデリングの障害によって生じる事を示唆している。続いて、冠動脈の中でも領域特異的に表現系が出現する特徴から、冠動脈平滑筋細胞の由来の違いに基づいて表現系が出現する可能性を仮定し、神経堤細胞由来の細胞群を系譜する事の出来るWnt1-creマウスを用いて発現領域の詳細な検討を行った。冠動脈近位部においては右、左および中隔枝の全ての分枝部にてWnt1陽性細胞を確認する事が出来たが、末梢部においては中隔枝のみにその発現を確認する事が出来た、この所見は、中隔枝特異的に表現系が出現する特徴と一致している。免疫組織学的検討ではWnt1にてラベルされる細胞は収縮関連蛋白質を発現しており、血管壁細胞である事が確認された。本知見をもとに、エンドセリンA型受容体ノックアウトマウスにおいての発現を検討した結果、拡張した中隔枝ではノックアウトマウスではWnt1陽性細胞の発現を認めず、エンドセリン1-エンドセリンA型受容体を介したシグナルが神経堤細胞特異的に平滑筋細胞への分化に必要である事が示唆された。
|