研究概要 |
本研究の目的は、談話標識の使用傾向を計量的に分析することで、日本人英語学習者の談話能力の測定・評価をすることである。 平成22年度は、日本人英語学習者(中学生、高校生、大学生)および英語母語話者の英作文データ(=学習者コーパス)を大量に入手し、その中で用いられている談話標識の頻度と用法を統計的に調査した。そして、自然言語処理技術による量的分析と言語学的・言語教育学的知見に基づく質的分析を有機的に組み合わせることで、日本人英語の「不自然さ」や母語話者との「差異」に光を当てた。今年度の調査で明らかになった、日本人英語の「不自然さ」の例としては、一人称代名詞(e.g.I)の過剰使用、文頭の接続詞・接続副詞の過剰使用(e. g. But, So)、談話の順序を表す表現(e. g. firstly, then)の過剰使用、私的動詞(e. g. think)の過剰使用、緩衝表現(e. g. would, may)の過少使用などが挙げられる。これらの表現に関して、日本人学習者と母語話者の頻度には統計的に有意な差が見られ、その用法に関しても質的な差異が見られた。 また、日本人学習者と母語話者の英語だけではなく、フランス人学習者、ドイツ人学習者、ロシア人学習者、中国人学習者などを含む16ヵ国の英語学習者による英作文を統計的に比較し、クラスター分析を用いてグループ化を行った。その結果、日本人学習者と中国人学習者は、世界の英語学習者の中でもかなり特異な談話的特徴を持っていることが判明した。 さらに、同じトピック、同じ実施環境、同じ書き手(=日本人大学生)による英作文と日本語作文の対照言語学的比較も行った。その結果、前述の日本人英語の「不自然さ」の多くは、母語である日本語の影響を強く受けたものであることが計量的に明らかにされた。 これらの客観的データを蓄積していくことは、英語学研究、英語教育研究、対照言語学研究、自然言語処理研究などにとって、非常に有益なものであると考える。
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