これまでの報告者らの研究で、南日本の島嶼に生息するニホンジカの足の長さは島ごとに異なり、屋久島に生息するシカの足の長さは、他の島個体群に比べて顕著に短いことが分かってきた。この現象は、島の環境の違いによって足の長さの遺伝形質が分化した局地適応の結果ではないかと予測している。本研究の目的はこの仮説を検証し、九州及び周辺島嶼に生息するニホンジカについて、足の長さの進化と維持の機構を理解することである。本年度は、1)足の長さの変異はどのような環境要因が影響して引き起こされたのか、2)形質の変異には遺伝的要因が関わる適応進化を含んでいるのか、について分析し、3)進化によって変異した形質と、歴史的な隔離によって生まれた中立な遺伝的変異に基づいたグルーピングの2つを合わせ、新しいグルーピング法を提案した研究を進め、博士論文の執筆に取り組み、学位を取得した。1)の内容はOecologia誌に掲載され(Terada et al 2012)、EFES5で発表した。3)の内容は日本哺乳類学会2011年度大会で発表し、ポスター賞「優秀賞」を受賞した。これらの研究で、大型哺乳類において初めて、相対的な中手骨の形質変異が局地適応の結果であることを新しい分析手法を使って示した。シカがそれぞれの島に局地適応した形質をもつことによって、それぞれの島の生態系へ異なる選択圧をあたえている可能性があり、今後の生態学的な研究への発展が期待できる。さらに、今回使った手法は実験不可能な他の生物への応用が可能となると考えられる。
|