研究概要 |
日本における新卒一括採用という慣習、制度が労働者の失業ならびに労働移動を通じて、経済全体の産出、所得に与える影響を分析するための理論モデルの構築をおこなった。日本の労働市場設計は、ヨーロッパで問題となっているような高水準の失業率や長期的失業の増加を回避する上では有効であるが、労働移動率を抑制するシステムは産出に対して負の影響を持つことが示された。主要な理論モデルの構築はAriga and Okazawa (2010)にまとめられているが、景気循環や近年の技術変化との相互作用を考察するために、現在は理論の拡張と既存実証研究との整合性の確認をおこなっている。この研究の成果は来年度以降の研究の基礎を与えるものであると考えている。 一方、所得の不平等が経済成長に与える影響に関する研究も同時におこなっており、既存の理論研究が示唆する不平等の成長に与える効果が必ずしも実証研究からの支持を得ていないことを受けて、既存の研究とは異なる観点から不平等と成長について説明する理論を構築した(Mizuno, Naito, and Okazawa 2010)。この研究では、政治経済学的な分析枠組みを援用し、不平等が政治家による汚職を助長し、経済成長を阻害するメカニズムを考察している。この研究が提示する理論仮説は、不平等と汚職に関する実証研究と整合的であり、不平等と経済成長という多くの研究蓄積が存在する重要な研究課題に対して、新しい貢献を提供するものと考えている。
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