研究概要 |
体長に匹敵するほど長い交尾器をもつ分類群は数多く知られる.一般に,そのような現象は繁殖上有利なため進化したと考えられているが,これまで完全に無視されてきた問題もあった.オス交尾器は,多くの動物で体内に収納され・交尾時にはメスに挿入するという動的な動きを見せる.そのため,たとえ長い交尾器が繁殖で有利であっても,収納場所・交尾中の簡易な操作性の欠如が適応的制約となり,極端な伸長を阻むと考えられる.そこで,「極端に伸長した分類群では,予想される適応的制約を相殺する進化的イベントを経験した」という仮説をたて,形態学的アプローチから検証を試みた.1.まず,体長の2倍近い伸長部を持つトゲアシクビボソハムシ(昆虫綱,クビナガハムシ亜科)を材料に,伸長部の収納と交尾時の操作性をささえる形質の特定を行った.オス交尾器の形態観察と,交尾中のペアを定期的に固定し交尾中の雌雄交尾器の位置関係・オス交尾器の動きを調べた.これらの観察から,オス交尾器・内袋の特殊な'形'が,体液による内袋の内圧上昇による伸長部の押し出しと,筋肉の収縮による引き抜きという単純なメカニズムを可能にすることが考えられた.2.クビナガハムシ亜科全体を対象に交尾器・内袋の詳細な形態比較を行い(133種,本亜科の10%強を調査),伸長現象と関連のある形態変化を推定した.その結果,以下の3点を明らかにした.クビナガハムシ亜科の交尾器は,(1)伸長部を持たないものが祖先的であること,(2)内袋を収める挿入器の長さを超えるほどの極端な伸長と,内袋の特殊な'形'の獲得が相関すること,(3)基本形からの大幅な変形により,特殊な'形'が確保でき,簡易な出し入れ機構を生む構造を生み出していることが推定された、これらのことは,基本形からの大幅な変形が,制約を相殺する進化的イベントであったことを意味している.
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