研究概要 |
光合成における電子伝達系はリニア電子伝達系とサイクリック電子伝達系に大別される。リニア電子伝達系はATPやNADPHを合成し、CO_2固定をはじめとする様々な代謝経路にそれらを供給する。一方で、サイクリック電子伝達では、NADPHは蓄積されずに、ATPのみが合成される。このサイクリック電子伝達系として、NDH依存経路が関与していることが示されているが、その生理機能については未だ不明な点が多い。そこで、本研究では、NDH依存サイクリック電子伝達経路が様々な栽培温度におけるイネの植物成長と光合成能力に与える影響を明らかにすることを目的とした。 農林水産省のミュータントパネルからNDH欠損変異体イネ(crr6)を取得し、PCR法によるホモ個体の選抜を行った。また、クロロフィル蛍光測定とウェスタンブロッティング法によるNDH欠損の確認を行った。野性株とNDH欠損変異体を様々な栽培温度(20,28,35℃)において栽培し、それぞれの栽培温度における植物成長と光合成能力を比較解析した。20℃栽培では、crr6変異体は野性株に比べ、強光条件下における電子伝達速度及びCO_2同化速度が約10%、成長速度が約20%と有意に低下していた。一方で、28℃と35℃栽培では、両者の間に光合成速度や植物成長の差は見られなかった。以上の結果により、イネにおけるNDH依存サイクリック電子伝達系は、特に低温条件下において光合成の最適化に重要な経路であることが明らかとなった。現在、サイクリック電子伝達がルビスコ活性化状態に及ぼす影響を明らかにするために、ルビスコ活性化の温度応答を解析中である。これらの解析によって、サイクッリク電子伝達がルビスコ活性化の温度応答に及ぼす影響を明らかにすることが可能である。
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