近年、核酸医薬品に大きな注目が集まり、その開発の重要性は拡大の一途をたどっている。しかし通常、体内に投与した核酸医薬品が望みの組織や細胞でのみ薬効を示すことは難しく、そのため現在は眼科用薬など局所利用に限られているのが現状である。この対象疾患の制限を打破するため、光をトリガーとして機能の発揮を時空間的に制御できる光応答性人工核酸の開発に着手した。まず、所属研究室で開発した架橋型人工核酸(BNA)が糖部の架橋化により天然の核酸にはない特長を示すことに着目し、その開裂を制御することで核酸の性質を大きく変化させることができると考えた。このコンセプトに基づき、BNAの架橋部位に種々の光分解性官能基を導入し、光刺激によって架橋が開裂する光応答性BNAを設計した。 初年度である平成22年度は、光応答性BNAの有機合成とその化学的特性の解明を中心に研究を進めた。その結果、2種の光応答性BNAの合成を達成し、それらの糖部架橋が光刺激によって開裂することを見出した。また、相補鎖DNAやRNAとの結合親和性、核酸分解酵素に対する耐性能などの性質が架橋開裂によって大きく変化し、その変化パターンが2つの光応答性BNA間で異なることを明らかにした。同時に、光だけでなく他の様々な外部刺激応答性BNAの開発も行い、架橋部に導入する置換基を適切に選択することで酸もしくは還元剤によっても糖部架橋を開裂させ、核酸の性質を変化させることに成功した。 これらの結果は光刺激のみならず、酸性度や酸化還元電位などの環境変化によっても核酸の機能性を自在に制御できる、これまでにない遺伝子発現制御法開発の可能性を示している。
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