研究課題/領域番号 |
10J03319
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
遠藤 圭太 北海道大学, 大学院・農学院, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 冬芽 / 器官外凍結 / 過冷却 / 細胞外凍結 / 細胞内凍結 / 低温走査型電子顕微鏡 |
研究概要 |
平成23年度は、樹木の成長にとって最も重要な器官である冬芽の冬の氷点下温度に対する適応機構を調べるために、広葉樹からカツラおよびシラカンバ、針葉樹からストローブマツを選び、冬芽の凍結挙動を低温走査型電子顕微鏡によって細胞レベルで観察を行った。 1日に5℃の冷却速度で-30℃まで凍結したカツラ冬芽は、多くの樹木冬芽に特徴的な凍結適応機構として知られている器官外凍結を示し、芽鱗の間に氷が析出した。この時、冬芽の中心組織である花・葉原基の細胞は、若干の脱水を伴いながらも細胞内に水を保持して過冷却を示したが、芽鱗の細胞は、細胞外凍結を示すことが明らかとなった。さらに、花原基を冬芽から摘出して組織が氷と触れさせて凍結すると、細胞は-10℃までの凍結によって細胞にとって致死的な細胞内凍結を示した。 一方、シラカンバおよびストローブマツでは、凍結下においても器官外凍結を示さず、芽鱗および原基内の細胞外に氷の析出が観察された。そして、全ての組織において細胞は凍結による脱水を示して細胞外凍結した。これらの両樹種の冬芽の原基を摘出して凍結しても、冬芽全体での凍結時と同様に細胞外凍結を示した。 以前に調べた器官外凍結するカラマツ冬芽の凍結挙動の観察結果と今年度に行った実験結果により、樹木の冬芽は樹種によって異なる凍結適応機構を示すことが明らかとなった。さらに、器官外凍結もしくは細胞外凍結という適応機構の違いが、原基細胞における細胞外氷晶に対する感受性の違いによるものであること示唆された。 今後、冬芽の凍結適応機構をより詳しく理解するために、季節変化における冬芽とそれを構成する全ての細胞の凍結挙動の変化、物質レベルでの凍結挙動の制御機構などを詳細に調べる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
供試材料(樹種)を増やして観察を行ったことにより、樹木冬芽の凍結適応機構が異なることが明らかとなった。これにより、適応機構の違いによる冬芽の共通点、相違点が見いだされ、他の組織にはない器官外凍結の特徴とそのメカニズムが明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
冬芽の凍結適応機構を総合的に理解するために、季節的な氷点下温度に対する応答の変化に着目して研究を行う。これまで実験に用い、詳細に凍結挙動を観察してきたカラマツ冬芽を材料とし、凍結抵抗性の変化や、低温走査型電子顕微鏡によって冬芽と冬芽の細胞の凍結挙動の変化を観察する。さらには、フリーズレプリカ法によって細胞内微細構造に着目して構造変化、凍結挙動変化を詳細に調べる。
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