固体高分子形燃料電池(PEFC)のカソード電極触媒には希少で高価な白金が用いられているが、PEFCを本格的に普及させるためには安価な白金代替触媒の開発が不可欠である。最近、非白金系電極触媒として、高い酸素還元反応(ORR)活性を示す炭素材料であるカーボンアロイ触媒(CAC)に注目が集まっている。白金系触媒の性能を凌駕するCACを開発するためには、カソード環境と同じ酸性溶液中(in situ)における酸素吸着前後の触媒の電子状態を明らかにする必要がある。軟X線発光分光(XES)は検出深さが電子を検出する手法よりも長く、元素選択的な手法であることから、酸性溶液条件下のCACの価電子帯状態密度を調べる最も強力な手法である。そこで本研究は、XES測定用in situ溶液セルを設計し、CACのin situ測定に向けて超高分解能XES装置を用いて主要なテスト測定を行った。 設計、作成した溶液セルははじめオフラインで耐圧テストを行った後、専用フランジに取り付け、軟X線発光分光装置と組み合わせ、送液テストを行った。その結果、1x10-5Pa以下の超高真空を保ったまま、送液が可能であった。次に、液体の水、重水、及び気体の酸素を用いて、O1s XESの評価実験を行ったところ、スペクトルの取得に成功した。 CAC試料は、窓の大気圧側(溶液と接する側)にエレクトロスプレーデポジション法により薄く直接塗布し、酸素飽和の酸性溶液を送液することで、観察すべき固体/液体界面を作った。放射光を用いて各元素の吸収・発光スペクトルの取得を試みたが、十分な信号強度が得られなかった。原因としては、触媒試料が均一に塗布されていないこと、装置上の制約から、軟X線発光の検出効率が低いこと、が考えられる。
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