研究課題/領域番号 |
10J03320
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丹羽 秀治 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DCI)
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キーワード | 燃料電池 / 触媒 / 酸素権限反応 / 軟X線発光分光 / 放射光 / その場測定 / 分子吸着 |
研究概要 |
白金系触媒の性能を凌駕するカーボンアロイ触媒(CAC)開発のため、固体高分子形燃料電池(PEFC)動作条件下においてCACの電子状態を直接観測し、酸素還元反応(ORR)活性点や劣化メカニズムを明らかにし、触媒合成の指針を得る必要がある。本年度の研究は、ORRの第一反応である酸素吸着過程に着目し、軟X線発光分光(XES)を用いて大気圧下で元素選択的に価電子帯の電子状態を観測することにより、鉄フタロシアニン由来CACの酸素吸着活性サイトを同定することを目的とした。鉄フタロシアニン(FePc)とフェノール樹脂を熱処理してCACを合成した。XES測定は、SPring-8東京大学物質科学アウトステーションビームラインBLO7LSUの超高分解能発光分光装置を用いて行った。昨年度設計したin situセルのSi3N4膜大気側にドロップキャスト法で触媒を塗布した。Fe 2p XES測定はAr及びO2雰囲気下で行った。 前駆体であるFePcのFe 2p XES測定を行ったところ、O2雰囲気測定で得られたdd励起ピーク強度は、Ar雰囲気下で測定したdd励起ピーク強度よりも小さかった。これは、FePc分子の中心遷移金属に酸素分子が化学吸着し、Feから酸素π*軌道への電子逆供与が生じたことを示しており、今回開発した手法で鉄の酸素吸着過程が観測できることを実証した。活性の高い600℃焼成試料でも酸素吸着により電子状態変化が生じたが、活性の低い800℃焼成試料では変化は観測されなかった。すなわち、同じ原料から焼成した触媒でも、焼成温度の違いによりORR活性サイトが異なることが示唆された。 さらに、昨年度作成したin situセルを改良し、燃料電池動作条件下で触媒の電子状態を観察できる電気化学装置を開発し、サイクリックボルタンメトリーが行えることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体高分子形燃料電池(PEFC)正極用カーボンアロイ触媒の酸素還元活性機構を解明するための、燃料電池動作条件下で触媒の電子状態を観察できる電気化学装置を開発し、サイクリックボルタンメトリーが行えることを確認した。一方で、前年度作成したin situセルを用いた酸素飽和酸性水溶液環境でのカーボンアロイ触媒の軟X線発光分光測定に必要な、触媒塗布条件の最適化が完了しておらず、本年度は代わりに不活性学及び酸素雰囲気環境でのカーボンアロイ触媒及び前駆体の鉄フタロシアニンの軟X線発光分光測定を行った。
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今後の研究の推進方策 |
真空と溶液を仕切る窓材に触媒試料を塗布する条件の最適化を行い、in situセルを用いた酸素飽和酸性水溶液環境でのカーボンアロイ触媒の軟X線発光分光測定を行う。また、実際の燃料電池動作条件である膜電極接合体を用いて発電状態で軟X線発光分光が行えるように装置の改良を行い、発電中のカソード中カーボンアロイ触媒の軟X線発光分光測定を行い、カーボンアロイ触媒の活性メカニズムを明らかにする。
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