白金系触媒の性能を凌駕するカーボン系正極触媒開発のため、PEFC動作条件下において触媒の電子状態を直接観測し、酸素還元反応(ORR)活性点や劣化メカニズムを明らかにし、触媒合成の指針を得る必要がある。本年度の研究では、ORRメカニズムを解明するため、燃料電池動作条件下における多段焼成FePc由来触媒の電子状態変化をXESにより直接観測出来るoperando測定システムを開発し、電位制御下での電子状態測定を行うことを目的とした。 FePcとフェノール樹脂を原料として、不活性ガス雰囲気下での焼成、酸洗浄を繰り返して多段焼成FePc由来触媒を合成した。カソード触媒層に多段焼成FePc由来触媒を、アノード触媒層にPtRu/C触媒を塗布して膜電極接合体(MEA)を作製した。触媒層へのガス供給、両電極間の電位制御が可能で、高真空環境と大気圧下のMEAをSiC窓材により隔てたMEAセルを新たに開発した。Operando XES測定は、SPring-8 BL07LSUの超高分解能発光分光装置を用いて行った。MEAセルのアノードに水素を、カソードに窒素または窒素と酸素の混合ガスを導入し、両電極間の電位を開放端電圧相当の1.0Vと発電条件である0.4Vに制御してMEAカソード触媒層中のFe 2p operando XES測定を行った。' 1.0VでのFe 2p operando XESにより、酸素導入に伴う鉄のdd励起強度の変化を見出した。このことは、多段焼成FePc由来触媒のFeサイトにO2が吸着することを示唆している。続いて0.4Vに保持してXES測定を行ったが、発電に伴う電子状態変化は窒素導入時と酸素導入時でほとんど見られなかった。以上の結果から、この多段焼成FePc由来触媒の鉄サイトが酸素還元反応活性点である場合は、生成物及び反応中間体の脱離律速であることが示唆された。
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