研究概要 |
本研究のテーマは「歪直交多項式の離散スペクトル変形理論の構築による離散可積分系の導出とその応用」であり,二年目にあたる平成23年度は特に「歪直交多項式に附随する離散可積分系の方程式の導出」を、年次計画の計画表で主たる目標に据えていた。この目標に関して,実際に一年目(平成22年度)で導出に成功した歪直交多項式のスペクトル変形理論から、歪直交多項式に対応する離散可積分系の導出を行うことに成功した。この方程式は空間変数2次元,時間変数1次元で記述される方程式であり,更にはこの方程式が2x2の行列形式に歪直交多項式の観点から自然に拡張できることも明らかになった。これらの結果についてはジャーナルSymmetry, Integrability and Geometry: Methods and Applications (SIGMA)に投稿し,出版がなされた。これらの結果は本研究の主たる目標であるアルゴリズム構築以外にも、スペクトル変形理論の結果からランダム行列理論への応用が期待される。今後はこれらの結果を実際に計算アルゴリズムなどへの応用を試みていく。 また,平成23年9月末から平成24年3月上旬までの約五ヵ月の間,カナダのUniversite de Montrealの直交関数や量子力学の分野で著名な専門家であるLuc Vinet氏の下を訪ね,歪直交多項式を含む様々な直交関数に関する知見を広めるとともに,様々な海外の研究者たちと交流を深めることもできた。特に,multiple直交多項式と呼ばれる,同時パデ近似の理論から導入された直交関数系に関して,Luc Vinet氏とDonetsk Institute of PhysicsのAlexei Zhedanov氏の共同研究でいくつかの新しい結果を得ることに成功した。これらの結果に関しても平成23年度内にPhys. Lett. Aに論文を投稿し,出版された。更には,ほかの結果に関しても現在論文投稿準備中である。更には,Cauchy双直交多項式と呼ばれる,非線形波動理論においてPeakon解と呼ばれる解を持つ可積分系な方程式であるDegasperis-Procesi方程式から導出された直交関数系に関しても,一年目で得られた結果をまとめ,ジャーナルJournal of Nonlinear Systems and Applicationsに投稿・採択され二年目に出版がなされた。これらの結果に関しても今後,更なる発展を試みていきたい。
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