多くの草原性絶滅危惧植物が集中して生育するホットスポットである阿蘇山系において、複数種の絶滅危惧植物(ハナシノブ、マツモトセンノウ、オグラセンノウ、ヒゴタイ、ツクシクガイソウ、ヒメユリ、タマボウキ)を対象に、保全生態・遺伝学的調査を行った。今年度はオグラセンノウとツクシクガイソウのマイクロサテライトマーカーの開発と遺伝子型の決定を行い、ハナシノブとマツモトセンノウの繁殖生態の調査を行った。対象種の生育地のうちアクセスが可能な場所において生育状況を調査し、遺伝解析用サンプルを採取した。オグラセンノウの遺伝子型に基づき集団の遺伝的多様性と遺伝構造を評価したところ、集団サイズに関わらず、すべての集団で遺伝的多様性は高かった。一方、生育地の分断化や縮小により集団間の遺伝子流動が減少し、遺伝的分化が進みつつある可能性が考えられた。ツクシクガイソウについては、多くのサンプルが同一の遺伝子型を示し、無性生殖を中心に集団を維持している可能性が考えられた。また、ハナシノブとマツモトセンノウの繁殖生態を調査した。ハナシノブでは、マルハナバチ類の訪花頻度が結実を制限していることが明らかになった。マツモトセンノウでは、管理放棄された草原やスギ植林地で結果率が低かったが、半自然草原であっても虫害が多い集団では結果率が低かった。両種ともに、ほぼすべての集団で花粉制限が検出され、送粉者による花粉の輸送が不足している可能性が示唆された。これらの成果は保全生態学の基礎として重要なだけでなく、実際の保全の現場でも応用できるものであると考えている。
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