ハドロン分子状態やマルチクォーク状態等、エキゾチックな構造を持つハドロンの研究は、ハドロンの系統的な理解や状態出現に必須な要素の把握を通じて強い相互作用の本質に迫る、重要な課題である。本研究の目的は、エキゾチックな構造を持つと予想されるハドロン励起状態、特にΛ(1405)に関して、その構造の理解と解明を追求する事である。平成22年度は、一般の中間子-核子束縛状態において中間子の質量を仮想的に変数として変化させた場合の束縛状態の構造及び中間子-核子間相互作用を考察し、現実の反K中間子の質量(約500MeV)が強い相互作用での二つのハドロンの分子的状態としてのΛ(1405)を形成するのに適している事を明らかにした。又、実験施設DAFNEにおける低エネルギー反K中間子をビーム、重水素を標的とした反応におけるΛ(1405)生成の可能性を議論し、重心系において中性子が前方に射出された場合にΛ(1405)の質量スペクトルのピークが1420MeVに現れ得る事を示した。次に、ハドロン分子状態やマルチクォーク状態と期待されるハドロンに対し、相対論的重イオン衝突におけるハドロンの生成量からその構造を特定する方法を提案した。コアレッセンス("合体")模型を用いてハドロン生成量を計算した所、エキゾチックでない場合の生成量と比較して、コンパクトなマルチクォーク状態は1桁小さく、一方ハドロン分子状態は2倍以上の生成量を持つ事が示唆された。最後に、重水素を標的とするφ中間子光生成断面積を単純な模型を用いて理論的に計算し、日本の実験グループLEPSより報告された散乱断面積の減少効果の検証を行った。結果として、重水素内におけるφの有限密度効果が非常に小さい事を明らかにした。以上の研究成果に関して、原著論文を2本受理及び2本投稿中、国際会議の口頭発表を2件、国内会議の口頭発表を2件行った。
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