鞘翅目ガムシ科は水生昆虫として有名な分類群である。しかし、生活環のすべてにおいて陸上生活を行うグループが含まれている。これら陸上生活を営むグループは、二次的に陸上へ進出した可能性が高いことが示唆されている。本研究の最終目標は、ガムシ科の水中から陸上への、あるいは陸上から水中への生息域変更の全体像を探ることである。幼虫は成虫に比べて環境変化の影響を受けやすい発育ステージであり、成虫とは異なる視点からのアプローチが可能であるため、幼虫形態は新環境への進出という進化イベントを理解する点で適した材料であると考えられる。しかし、その幼虫形態の情報は多くが未知もしくは部分的な知見で構成されている。加えて、全国の博物館において、成虫標本に比べ、幼虫標本の蓄積は圧倒的に少ない。本年度は、基礎的な知見の構築と材料の収集を目的として研究を遂行した。野外調査を行ったほか、愛媛大学ミュージアム収蔵標本の調査を行った。これらの結果と研究協力者による提供標本を基に、日本を中心としたガムシ科甲虫の幼虫形態を観察した。ガムシ族の日本産種、およびマルガムシ族について幼虫形態研究を行った。これらの結果は論文として投稿済みである。また、ガムシ科系統において、基部に位置する分類群のひとつとされていたクロシオガムシ(クロシオガムシ亜科)の幼虫について詳細な観察を行った。本種の幼虫は系統位置の異なるツヤヒラタガムシ属幼虫に酷似している。ガムシ科の既知幼虫との形態比較を行った結果、本種の幼虫形態は系統的に離れているヒラタガムシ亜族の幼虫形態によく合致し、これまでの系統仮説を支持しなかった。この結果は、日本昆虫学会において口頭発表を行った。
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