研究概要 |
東アジアの近年の急速な経済発展に伴い人為起源大気汚染物質の排出量は増加しており,例えば2007年春季には我が国で広域的な光化学スモッグ注意報が発令され社会的に大きな影響を与えた.大気中の種々の化学物質の挙動やその影響を理解するためには,発生・輸送・化学反応・沈着過程を包括的に表現できる化学物質輸送モデルを用いた数値シミュレーションが1つの大きな有効手段である. しかし,モデルには依然として多くの不確実性があり,モデルに与える排出量インベントリの不確実性が最も大きい.モデルによる計算値と観測値との整合性を高める画期的な手法としてデータ同化が挙げられる.データ同化では数値モデルと観測データとを融合させることで,より高い精度の数値シミュレーションが可能となり,その結果,排出量の逆推定なども可能となる.従来では独立に行われてきた排出量推計と化学輸送モデルシミュレーション解析,衛星計測による観測結果の解析をデータ同化手法で統合し,より精度の高い次世代の大気環境シミュレーション手法を確立することが本研究の目的である. 初年度は研究の基盤を整えることを目的とし,まず化学物質輸送モデルWRF-CMAQやWRF/Chemのパフォーマンスをデータ解析を通じて確認した.2007年の広域的越境汚染時の大気汚染物質と黄砂の輸送構造については論文を発表した.また2008年に沖縄辺戸岬で実施された集中観測(W-PASS)についてWRF-CMAQを用いて詳細な解析を行い,低気圧に伴った2つの輸送パターンを明らかにした.この研究については国際学会で2回発表を行った.さらには,次年度以降データ同化へ拘束条件として利用する衛星観測データとモデルを用いた研究として,2000年~2010年のエアロゾル光学的厚さ(大気微粒子の鉛直積算量)の経年変化の解析を現在行っており,国内学会での発表を重ね,現在論文を作成中である.
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