我々は、フローサイトメトリーを用いてマウス骨髄より純化した造血幹細胞(CD34^-c-Kit^+Sca^-1+Lin^-)、造血前駆細胞(CMP、GMP、MEP)や分化成熟細胞において、DNAマイクロアレイを用いてヒストン脱メチル化酵の遺伝子発現プロファイルを網羅的、体系的に解析した。この結果、H3K36特異的な脱メチル化酵素であるFbxl10(F-box leucine-richrepeat protein10)/Jhdm1b/Kdm2bが、造血幹細胞を含む未分化な分画で発現が高く、分化とともに発現が低下していくことから、造血幹細胞の自己複製や未分化性の維持に重要な機能を果たしている可能性が示唆された。造血幹細胞において、レトロウイルスベクターを用いてFbxl10を強制発現した場合、In vitroのコロニーアッセイ法では、多分化能を有するコロニー形成数が亢進することが観察された。また、In vivoにおける効果である競合的骨髄再構築能をマウス骨髄移植の系で評価したところ、連続移植では、コントロールと比較して、造血幹細胞の枯渇が妨げられることが示された。これらの効果を示す標的遺伝子を検索した結果、造血幹・前駆細胞においてもFbxl10の標的遺伝子の一つとしては、マウス線維芽細胞と同様にInk4a-Arf-Ink4b領域であることが明らかとなった。これは、クロマチン免疫沈降(ChIP)において、H3K36m2の脱メチル化とともにH2Aのユビキチン化を介して、直接制御していることが確認され、Fbxl10は、造血幹細胞の制御分子であるポリコームタンパク質との機能的関連性が示唆された。これらの内容を、2010年の日本血液学会およびアメリカ血液学会において報告し、現在投稿準備中である。
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