研究課題/領域番号 |
10J03638
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
内出 崇彦 京都大学, 防災研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 震源地震学 / 高周波地震波放射 / 断層すべりインバージョン / バックプロジェクション / 2010年E1 Mayor-Cucapah地震 / 2011年東北地方太平洋沖地震 |
研究概要 |
平成23年度は、2010年E1 Mayor-Cucapah地震(M7.2)と2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)を例にとって、高周波地震波放射源の場所とタイミングを断層すべり履歴と比較し、高周波放射が示唆する震源過程の詳細について検討した。高周波放射源はバックプロジェクション解析によって、断層すべりは断層すべりインバージョン解析によって推定した。 2010年E1 Mayor-Cucapah地震については、高周波放射源が推定された場所と時間では、断層すべりは活発ではなく、時間的には断層すべりの始まりであったり、空間的には断層すべりの端であったりする。また、震源断層が屈曲している場所でも高周波放射が見られた。高周波放射を生成するメカニズムのひとつとして、破壊伝播速度の変化が挙げられる。断層が高速で滑っているところで高周波放射が見られなかったという事実は、その際には破壊伝播速度がほぼ一定であることを示唆する。エネルギーの流入と消費が釣り合って、巨大な断層すべりにまで発展できたものと考えられる。本研究のように、高周波放射と断層すべりの時空間的な対応を見た研究は少なく、貴重な一例となるものと考えられる。 2011年東北地方太平洋沖地震については、破壊開始点より東側、日本海溝の近くで30m以上に及ぶ断層すべりが見られたが、高周波放射は見られなかった。本震前の地震活動も余震活動も活発ではない。一方、西側(深部)では断層すべりは東側(浅部)に比べると小さいが、高周波放射が数多く見られた。また、本震前後の地震活動も東側(浅部)に比べると活発である。このように、破壊開始点の東側(浅部)と西側(深部)で異なった地震発生の性質が見られた。これは、沈み込み帯の活動に伴う温度や水の含有量等の違いが影響しているものと考えることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震源過程イメージの周波数依存性については、2つの地震を例に、明らかにすることができた。そのうちひとつについては、論文にまとめる最終段階に入っている。2011年東北地方太平洋沖地震以降、周波数依存の震源イメージについて明らかになりつつあり、その議論に貢献することが期待される。また、小さい地震の解析手法については、他分野で用いられている手法に着目し、いくつか有力な候補を見つけたところで、次年度にはそれらを試行する準備が整いつつある。また、そういった手法が有効となると思われる震源スペクトルの報告例を手に入れている。
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今後の研究の推進方策 |
震源からの高周波地震波の放射については、2010年E1 Mayor-Cucapah地震についての論文をまとめ、破壊伝播速度の変化と高周波放射の関係についての議論を進める。2012年4月11日に発生したスマトラ西方沖の地震(M8.6)についても検討する。もともとスマトラ地域は地震計記録に乏しい上に、この地震は海溝軸の外側で発生しており、スマトラ島などの島からも遠く、遠地地震波しか使えないという点は問題であるが、日本の広帯域地震観測網F-netや高感度地震観測網Hi-netを中心に、検討を重ねる予定である。 一方、小さい地震の解析については、光学などで用いられている手法を具体的に地震波に応用して、どのような手法や拘束条件が適切であるかを検討する。震源スペクトルは安定して求められるようになったため、それに基づいて、どこまで位相情報を拘束できるかが鍵である。
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